2月5日
全国的に雪便りがあるのに東京では雪を見ない。雪見の旅を思い立った。どこか温泉に浸って雪景色を眺めたいと考えた。そういえばもう何年も温泉旅行に行っていない。余り気乗りのしない女房を説得して出かけた。何処というあてはなくJTBでとにかく鄙びた所がいいと推薦してもらったのが米沢の近くの小野川という温泉である。山形新幹線で2時間ばかりの近さである。
福島を過ぎて突然というほど風景が変わった。白一色になったのだ。線路沿いの家々の屋根に丸っこい、そう50センチ〜1メートルの雪が積もっている。見飽きずに眺めた。杉木立の枝の一つ一つに雪が乗っかっている。しばらくして開けた風景になって遠景の山々はボウッとけ煙ったように薄い白で覆われている。そうしているうちにもう米沢である。

 

米沢には現役時代雪の滑りやすい鉄板のコーテイング材料開発研究のため訪れたことがる。色々な種類のコーテイングを施した鋼板に雪がふった時ひとりでに雪が滑ってくれるコーテイング材はないものかというわけである。何年かにわたって実験したがどうも良いものが見つからず開発を断念した。米沢から郊外を雪の中を走っているとリンゴの木に赤い実がいくつか残っている。あれはなぜだろうと聞いてみると雪で餌が少なくなったときの鳥たちのために残してあるそうだ。花の時期交配を手伝ってくれたそのお礼のためだそうである。記憶に残る話、ちなみにその道をフルーツロードというそうだ。



駅はやはり雪、通りは除雪してあるが駐車している車の上にも積もっている。迎えの車で小野川の地に向かう。途中に雪かきをしている人を見る。雪国の人は大変だなとそのとき思った。
宿はこじんまりとした建物だ。迎えに出てくれた運転手の人が荷物をもって部屋まで運んでくれる。「これがいいんだ」「サービスはおかまいなしのところがいいんだ」と女房といいあいながら部屋に落ち着く。



外はしんしんと小粒の雪がやむことなく降っている。「こりゃぁ、今夜は積もりますよ」と部屋係りの女中さんが言う。少々身体が冷えていたので早速入浴。透明だ。少し熱め。のんびりと窓の外の雪に埋もれたような風景を眺める。湯殿の外は一面銀世界である。じっと湯に浸っていると時々ドサッと近くの家の軒から重さを支えきれなくなった屋根の雪が落下してびっくりする。何とも至福の時間だ。

・・・・・・1月早々知人の訃報が多かった。五高のクラスの古川、江崎の両畏友が亡くなったのはこたえた。長い付き合いだった。この10年余毎年のクラス会では必ず顔を見せていた両君がいなくなったのは真に寂しい。齢八十を数えれば誰が先にというわけでもないが、あぁこうなったのかとあれこれの思い出が頭に浮かぶ。

湯にほてった身体をしばらくさまして部屋へ帰る。のんびりしたせいか、もともとゆっくりするために来たこともあって眠気を催す。枕を出して転寝、この上なく気持ちがいい。女房が風呂からかえってきたのに起こされる。かくてはならじと折角持参のパソコンを取り出し接続してこの日記を書いている。

ややあって夕食が出る。米沢牛の産地なので今日はそのステーキだ。他にも料理がありこのところ小食の私は少し食べ残す。旅に出るのを逡巡していた女房が「あぁ、極楽、極楽」と喜んでいる。結構なことだ。いつもおさんどんをやってもらってのご苦労様なのだ。雪は絶え間もなく落ちている。

寝しなにもう一度湯にはいって寝につく。10時半。

2月6日
家にいる時より早く7時に目覚める。明るい。障子の外に陽がさしている。(写真5)まず入浴。自分ひとりの大きな湯殿で陽に映える遠近の景色をめでる。すっかり温まる。この温泉のおかげで昨夜は熟睡したのかも知れぬ。

 写真5

女房も起きて代わって湯殿へ行く。私はパソコンで前に書いた自分史の最初の稿を書き足す。いつかやらねばと考えていたことだ。約1時間。
朝餉の用意ができる。きのこのいった味噌汁、鮭の焼き物、湯豆腐、ほうれんそうのおしたし、焼き海苔、香の物。全体として量がやや多い。満腹。というわけで起きだしたばかりというのに眠くなる。



部屋の掃除をするから暫し外してくれという。仕方なく外出の用意をしてロビーでテレビを見る。二番せんじの推理ドラマにつきあった後、外出、雪道を借りた長靴で歩く・・・散策というには少し寒い。
 
 

みやげ物やの一軒に入る。レトリバーがいる。犬のにおいがあるのか私にまつわりつく。女房が温泉卵を求める。雪なので人出も少なく小野川マップに出ている通りもすぐ尽きてきた道を引き返す。さらに歩いて中華そばやで豆もやしラ−メンをたのむ。豆もやしといのが名物の由、茎の長いやや噛みでのあるもやしだ。たいして美味ではない。宿に帰ってのんびり・・・・・・・・・・グーグー、女房もグーグー。

3時頃入浴、6時半夕食。今日はすきやき、米沢は内陸なのに刺身がつき焼き魚もある。野菜の煮物2品、1合の酒でいい機嫌である。すき焼きを食べていい加減の腹になる。パソコンで日記の続きをと思ったがけだるくて止めてTVを見る。「はんなり菊太郎」何かさわやかな感じ。雪は降り続いている。遅く入浴。就寝11時。
2月7日
終夜降り続いて障子を開けて見ると降り積もっている。なにも見えない遠い空から白いものがとめどなくおちてくる。静かだ。入浴。女中さんによれば昨夜は宴会があってカラオケで賑わったそうだ。私の部屋までは聞こえてこず幸い。頭がすっきりしている内にと思いパソコンに向かう。やり出せばそれなりにはかどる。A4数枚ほど書いたところで朝飯。

今日はもう帰京、もう一晩という思いもするがもう一日居れば長くなりすぎて逆に疲れが出そう。パソコンをかたずけ出発の用意をした後何もすることも無し、ただぼんやりしている。こんな時間はいいものだ。

11時に駅までのバスが宿の前まで迎えにきてくれる。あまり愛想がいいとは言えなかった女将さんが頭に小雪を浴びながらも手を振って送ってくれた。道は相当の積雪、なれているのであろうか運転手はかなりのスピードで走る。20分余、駅前に何か彫像があるのだがそれが何者か、姿が識別も出来ない。駅舎に入って土産物の店をのぞく。思いついて知人に米沢牛を送る。店の女性のうまい宣伝にのせられてこの時期にしかないという生酒原酒を求める。友人への贈り物と我が家で賞味する分の2本買う。

食堂で昼食、畳に座している客の履き物は全部長靴、あたりまえなのだがこんな事が目につく。女房はカレー、私はかけうどん。それにアイスクリームを食べる。

13時10分発のつばさで東京へ、往路と同じで福島を境にして雪がなくなる。読書していが眠さにかてず居眠り、そして定刻に上野着。タクシーで帰宅、エレベーターで早くもマギーに会う。一緒に我が家へ、変化なし。マギー、今夜は我が家に泊まる。いくらか疲れていて何をするのも億劫、夕方までは新聞に目を通したりテレビを見たり、ぼんやりと過ごす。

かくて2泊3日の旅は終わった。用意もなく風呂に浸かれるのが有り難たかった。客が少ないせいか湯殿ではいつも私だけの貸し切り風呂みたい、眠い時にいつでも昼寝できるのは嬉しい事であった。そして何より一面の銀世界を堪能したことが嬉しいことであった。

夜はTVで一つドラマを見る。ザ・ロード・オブ・ザ・リングが放映されていたが長時間番組でありビデオに収録、追ってゆっくり見ようと思う。

寝る前にパソコンを一巡、たいした書き込みもなく、後は明日にする。就寝0時。